移民とともに : 計測・討論・行動するための人口統計学
移民とともに:計測・討論・行動するための人口統計学
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フランスでは、移民を標的にして商業的な成功を収めた書籍には、『フランスの自殺行為』、『フランスのメランコリー』、『不幸なアイデンティティ』、『心神喪失状態のフランス』などの否定的なタイトルが付けられている。国の凋落と愛国心の低下を嘆くこれらのエッセイの著者は、決して存在しなかった世界を夢みる。すなわち、移民のいない世界である。しかし、彼らはおかしなことに、自分たちがあれほど危惧する凋落が起きることを願う。なぜなら、自身の予言が正しかったことを証明したいからだ。結局のところ彼らは、移民の受け入れおよび統合から生じる困難を乗り越える能力はフランスにはないという憐れなイメージを流布しているにすぎないのだ。
ファクトフルネスとしての「共生」を考える
嘘の数字、詭弁、フェイクニュースを見破るために! フランスの移民学の権威が、人口統計学をもとに間違いだらけの移民政策を検証。
嘘の数字、詭弁、フェイクニュースを見破るために! 国立人口学研究所でエマニュエル・トッドを監督したフランス移民学の権威が、統計データを基に移民政策を徹底検証。サルコジ政権の施策を総括し、本書は将来への展望を示す。国民のおよそ4人に1人が移民あるいは移民の子ども──移民大国フランスから、われわれが学ぶべきことは何か? 「私の願いは、移民に関する疑問について国内の枠組みに閉じこもるのでなく国際的な比較に基づいて客観的な知識を得たいと真摯に願う日本の読者が本書に興味をもってくれることだ。フランスの移民政策の成功と失敗からは、将来の解決策を熟考する人々全員に有益になりうる、プラスあるいはマイナスの教訓が得られるはずだ。」(本書「日本語版への序文」より)
EUを主対象に分析を進めながら右翼と左翼の非対称性を論じ、国民戦線やポピュリズムに対する批判的な視座はもちろん、「ヒトラーに落とし込む論法」「スターリンに落とし込む論法」など危ないレトリックの数々をしりぞけて、世界を正しく見つめる心得について説いてゆく。ファクトフルネスとしての「共生」を考えるための好著。 目次
日本語版への序文
はじめに
政策の変化に反応しない通常の移民
ニコラ・サルコジの移民政策──その評価はいかに?
ヨーロッパの危機に直面したシリア難民
世代を経て
往来から人口を増加させる定住へ
主意主義の失敗
過熱を防ぐ手段──議論に用いられるレトリックの分析 中立的な立場を明確にするために
1 サルコジ時代の移民政策(二〇〇二~二〇〇四年、二〇〇五~二〇一二年)
第1章 選択的移民政策の失敗
「三つの過ち」という寓話
家族呼び寄せに関する本当の話
移民を「選択する」
国民戦線(FN)はなぜ「選択された移民」政策と決別したのか
削減できない「押しつけられた移民」
第2章 主意主義の限界
「私が望むのは……」
やり方がわからないのにやろうとする
移民省の行政力
移民政策を複雑にする三つの要因
サンガットからカレーへ──問題は移動しただけ
2 サルコジ後、あるいは彼の負の遺産
第3章 「受け入れ容量」という詭弁にしがみつく共和党員
フランソワ・フィヨンの「選択された移民」に対する奇妙な評価
ワークシェアリングと移民の受け入れ──右派と左派の奇妙なやり取り
マルサス主義の移民版
第4章 移民問題に直面して狼狽する左派
社会党のはっきりしない態度
荒廃した左派の残骸
第5章 国民戦線(FN)の現実離れした政策
国民戦線の視点から見たニコラ・サルコジ
国民戦線の移民政策、あるいは現実の否定
国民戦線の政策を体験することになるのか
極右、導師、スピーチライター
労働市場と基本的権利──「リベラル・パラドックス」
3 人口学と権力──騒乱に巻き込まれる国立人口学研究所(INED)
第6章 個人的な体験、職業人としての経験
研究ポピュリズムという暗礁
君の住所を言ってごらん……
外国人は居心地がよいのか。フランスの調査、アメリカの調査
INEDとINSEEに対する厳しい批判
移民問題に関するINEDの科学的独立性
「選択された移民」に意見を求められたINED
『移民の時代』
第7章 研究への一斉射撃
極右の脅し
INEDに対する急襲──移民省への併合を画策
権力に目をつけられたINED
筆の重み
エルヴェ・ル・ブラーズの的外れな攻撃
慎重義務なく、行動を照らし出す
4 数字を操る?
第8章 一九九〇年代以降のデータの飛躍
データは大量にあるが、世間は懐疑的
移民の数値に対する11の不満
数値を正面から見据える
民族統計──すでに打ち破られた「タブー」
第9章 国民の統計のために
数字による政治、世論による政治
移民の数字は、政府の善悪を意味するのか
統計の二つの利用法──概観とリスクの計測
言い訳することなく理解する
束縛と自由との間にある移民
5 数字による論争?
第10章 刷新された国勢調査をめぐる不毛の闘い
新たな国勢調査を攻撃するジャック・デュパキエ
サルコジ大統領下の移民算定法の安定性
人口の純移動数の分析道具としての調査
第11章 無知によってすべてを一刀両断にするエリック・ゼムール
一つめの間違い──〇・一人の子供と〇・一%
二つめの間違い──帰化した移民は統計から消え去るという誤解
三つめの間違い──人口内の割合と集団内の比率の混同(風貌に基づく職務質問の例)
第12章 刑務所内の移民の比率──偽りのタブー
刑務所で起きていること──移民の出自と社会的な要因
移民と刑務所──データに関する広報
配慮しながら調査を更新する
取り除かれたタブー、何をなすべきか
第13章 「補充移民」は、人口予測に関する陰謀論者の解釈か
人口学の架空の想定による頭の体操
誤読を誤読する
「大規模な補充論」の犠牲者アラン・フィンケルクロート
6 徹底的な議論──関係者と論証
第14章 「全員に関係する口論のテーマ」
議論する権利は当然ではなくなった
風通しのよい論争の舞台
右派、超右翼、極右
第15章 あらゆる階層での論争
超右派のブロゴスフィア
左翼と右翼の非対称性
第16章 悪の肖像
「ヒトラーに落とし込む論法」──ゴドウィンの法則
「スターリンに落とし込む論法」
第17章 狂気、滑りやすい坂論、逆効果
「狂気に落とし込む論法」──狂った判断
右派に対する左派──短絡的に発せられる「狂った判断」という評価
良識と世論──民主主義という問題
民主主義の忘れられた構成要素──熟慮の時間
破滅へいたる坂論、あるいは確実の起きる大惨事論
「逆効果」と受け入れ容量──左派と右派の行き違い
7 統合の時代
第18章 対照的な統合
雇用、教育、資源
統合の分析における「他の条件が同じならば」
出自による差別
第19章 同化/統合、過大評価された議論
同化モデル、回顧的な創造
入国する以前から同化する
組み入れモデルとしての多元主義
出生地主義でも血統主義でもなく──滞在期間主義
第20章 連帯と憐れみ
アラン・クルディ──道徳によって水没する政治?
憐れみの政治
同じ血が流れる
役に立つ移民から当然の権利をもつ移民へ
移民に賛成でも反対でもなく
訳者あとがき
注